湘南での家づくりー海の近くでの注文住宅のポイントと注意点
2025. 07. 25 | 家づくりガイド |
「海の近くに家を建てて、のんびり暮らせたら最高だな~」
湘南の海辺を訪れた帰り道、そんなことをふと思い描いたことはありませんか?
でもいざ本気で家づくりを考え始めると、
「潮風って家に悪影響あるの?」「どんな素材が長持ちするんだろう?」「この地域ならではの注意点って?」
そんなリアルな疑問や不安が次々に湧いてきます。
今回は、“憧れの海辺暮らし”を本当に快適に、長く楽しむための工夫やポイントをまとめました。
たとえば、潮風に強い外壁素材の選び方、メンテナンスのコツ、風通しとプライバシーを両立させる間取りの工夫など、
実際に住んでみないと気づきにくい“リアルな暮らし”のヒントがぎっしり詰まっています。
≪この記事を読んでわかること≫
●湘南での家づくりには、自然環境(塩害・湿気・風など)と調和した設計と素材選びが必須
●長く快適に暮らすためには、メンテナンス性と耐久性を考えた構造・納まりが重要
●趣味・仕事・家族の変化に対応するには、可変性と余白のある空間設計が暮らしの質を高める
●地域性(景観・文化・法規制・地盤)を理解し、地元に根ざした設計・施工体制が安心につながる
●湘南で満足度の高い住まいを実現するには、「家を育てる」という視点を持ち、暮らしの中で自分らしさを更新していく姿勢が大切
目次
- 1. 1. 海の近くに住む魅力と現実 ①湘南で得られる豊かな自然と景観
- 2. 1. 海の近くに住む魅力と現実 ②塩害・湿気・風圧――過酷な自然環境への対応
- 3. 1. 海の近くに住む魅力と現実 ③湘南特有の季節変化と住まいの工夫
- 4. 1. 海の近くに住む魅力と現実 ④自然と共存するための考え方と視点
- 5. 2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ①外壁・屋根材の選定が家の寿命を左右する
- 6. 2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ②塗装や仕上げの工夫でメンテナンス性を向上
- 7. 2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ③構造と納まりがもたらす耐久性の違い
- 8. 2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ④日常のメンテナンス性を考慮した家づくり
- 9. 2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ⑤自然素材を活かした経年変化を楽しむ家
- 10. 3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ①海辺の暮らしに合った動線設計
- 11. 3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ②趣味や仕事と共存する空間のつくり方
- 12. 3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ③外とのつながりを感じる間取りの工夫
- 13. 3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ④湘南で得られる豊かな自然と景観
- 14. 4. 海の近くに住む魅力と現実 ①地域特性を活かした家づくりの視点
- 15. 4. 海の近くに住む魅力と現実 ②埋蔵文化財と地盤改良 ― 湘南地域ならではの法規制と対応
- 16. 4. 海の近くに住む魅力と現実 ③地域工務店だからできる柔軟な対応力
- 17. まとめ
1. 海の近くに住む魅力と現実 ①湘南で得られる豊かな自然と景観
湘南地域に家を建てる最大の魅力は、海と空が身近にある開放的な環境です。
朝日や夕陽が海に反射する美しい光景、潮風に揺れる草花の音、サーフィンや散歩などのアクティビティが日常に溶け込んでいるライフスタイルは、都市部では味わえない豊かさを感じさせてくれます。
海辺の暮らしは、五感が刺激される生活と言い換えることもできます。視覚的には青い空と広がる海原、聴覚的には波の音、嗅覚には潮の香り。天候の移ろいや季節の変化が、肌感覚で感じ取れる環境は、暮らしそのものをより丁寧なものに変えてくれます。これにより、生活のリズムが整い、自然と健康的な生活を送る方も多く見受けられます。
また、湘南は都市部へのアクセスが良好でありながらも、程よい距離感で自然との共存が叶う地域です。東京や横浜への通勤・通学圏内でありつつも、家に帰れば静かで穏やかな海辺の風景が広がっているという「オンとオフ」の切り替えができる点が、多くの人々にとって理想的な暮らしの場所となっています。
加えて、湘南にはローカルな文化やコミュニティが色濃く残っており、地域のお祭りやマルシェ、サーフカルチャーなどと自然につながることができます。これにより、単に住む場所というだけでなく、「暮らしを楽しむ場」としての価値が高まります。
このように、湘南での家づくりは単なる居住空間の確保ではなく、自然と調和したライフスタイルの選択だと言えます。その価値を最大限に引き出すためには、環境とどう付き合い、どのように住まいを設計するかが重要なポイントになります。
1. 海の近くに住む魅力と現実 ②塩害・湿気・風圧――過酷な自然環境への対応
そんな開放感のある湘南地域でいざ家を建てる際には、塩害・湿気・風圧といった過酷な自然条件を無視することはできません。
海辺に近い立地では、潮風に含まれる塩分が建材に付着し、外壁や金属部材の腐食を早める原因となります。特に海に面した方角の外装や、軒下など雨で洗い流されにくい箇所では、定期的な洗浄や素材の選定が重要です。
湿気の多い気候も、住宅の耐久性や室内環境に影響を与えます。通気性が悪い設計や断熱不足の構造では、結露やカビの発生が起こりやすくなります。これを防ぐためには、断熱と換気を組み合わせた温熱設計が求められます。壁体内結露を防ぐための通気層や透湿防水シートの配置も、施工段階からしっかりと計画しておくべきです。
また、湘南では台風の影響を受けやすいため、風圧に耐える建物設計も不可欠です。サッシや屋根材、外壁の固定方法に加え、開口部の配置や建物形状そのものにも配慮が必要です。たとえば、片流れ屋根や軒を深く出すデザインなどは、風の逃げ道を確保しながら雨の吹き込みも軽減できます。
建物の構造だけでなく、外構にも自然への対策が求められます。植栽は潮風に強い樹種を選ぶ、水はけを良くするための勾配設計を行うなど、敷地全体での対応が必要です。さらに、強風時の飛来物対策として、物干しや自転車置き場の固定など、小さな部分にも注意を払うことが望まれます。
湘南で長く快適に暮らすためには、「自然に耐える家」ではなく「自然と付き合う家」という視点が欠かせません。過酷な自然条件を前提とし、設計・素材・施工のすべてにおいてそれに応える対応力が問われる地域であることを、家づくりの出発点として認識する必要があります。

森戸海岸と葉山の稜線を望む「葉山 OHANA PORTO」。熊野の杉板貼りの押縁仕様の外壁です。外壁に何か不具合の疑いがあったときは押縁を取り外せば、部分的に点検・補修も可能なので、メンテナンス性に優れた張り方です。

「葉山 OHANA PORTO」では、浴室から続くバルコニーにジャグジー付き浴槽を設置。森戸海岸をのぞむプライベートな露天風呂です。
1. 海の近くに住む魅力と現実 ③湘南特有の季節変化と住まいの工夫
湘南の気候は温暖で過ごしやすい一方、季節ごとの気温差や湿度変化、強風や紫外線の影響が家づくりに影響を与えます。これらを前提にした設計を行うことで、年間を通じて快適に暮らすことが可能になります。
春から初夏にかけては、花粉や黄砂、PM2.5などの微粒子が飛散しやすい時期です。玄関土間やシューズクロークに外部と室内の緩衝帯を設ける設計により、外気や汚れを室内に持ち込まない工夫が求められます。加えて、通風計画や空調計画を丁寧に組むことで、湿度やにおいがこもりにくい環境をつくることができます。
梅雨から夏にかけては湿度が高くなり、カビやダニが発生しやすい時期です。断熱性能の高い家づくりとともに、計画的な換気と日射遮蔽(シェードや軒の工夫)を行うことで、温熱環境を安定させ、冷房効率も高められます。
秋は台風や強風の季節です。屋根材やサッシの飛散防止、バルコニーやデッキの排水計画など、外部に面する部分の安全性とメンテナンス性を意識したつくりが求められます。また、落ち葉や砂の吹き溜まりが発生しやすい場所には、掃除や排水がしやすいような構造にしておくと安心です。
冬は比較的温暖ですが、海からの風が冷たくなる時期でもあります。玄関や窓周りの気密性、床下断熱の強化によって、足元の冷えや冷気の侵入を防ぎ、快適な室温を保つ工夫が必要です。また、日射をうまく取り込める南面の開口部を広く確保し、太陽熱を効率よく室内に取り入れることも効果的です。
湘南の四季を前提にした家づくりは、単なる快適性の追求ではなく、「自然とともに暮らす知恵」の積み重ねです。地域の特性を理解し、それに応じた住宅性能と設計を整えることが、湘南らしい暮らしの実現につながります。
1. 海の近くに住む魅力と現実 ④自然と共存するための考え方と視点
湘南という海辺の地域での家づくりにおいては、「自然を排除する」発想ではなく、「自然とどう付き合っていくか」という視点が重要です。海風や湿気、強い日差しなど、いわゆる“住環境としてのマイナス要素”も、設計次第で暮らしに取り込むことができます。
たとえば、風通しを活かした窓配置や開口部の設計は、空調に頼らず快適な室内環境をつくる助けになります。外からの風をうまく取り入れ、熱気を抜く通風動線を計画すれば、夏でも自然な涼しさを得られます。また、強い日差しを遮る庇やすだれの設置は、室内の温熱環境を整えるだけでなく、外観にも湘南らしい風情を与えてくれます。
自然素材の活用も、共存のひとつの形です。無垢材や珪藻土・漆喰など、呼吸する素材を取り入れることで、湿度調整や空気質の改善にもつながり、結果として人に優しい住環境が生まれます。特に湿気の多い湘南では、こうした素材の力をうまく活かすことが、家の快適性と耐久性を高めるポイントになります。
自然と付き合うとは「変化を受け入れる」ということでもあります。砂や潮、落ち葉や湿気といった日常の“手間”も暮らしの一部として捉えることで、環境に対するストレスは減り、住まいへの愛着も深まっていきます。湘南での暮らしは、手をかけながら育てていく家であることが前提なのです。
家づくりとは、自然と人との“折り合いのつけ方”をカタチにする営みであり、それを丁寧に紡いでいくことが、湘南での理想の住まいづくりにつながります。
2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ①外壁・屋根材の選定が家の寿命を左右する
湘南で長く快適に暮らすためには、外壁や屋根材といった「外皮部分」の素材選びが極めて重要です。なぜなら、海風に含まれる塩分や強い紫外線、風雨といった過酷な自然条件に直接さらされる部分だからです。特に耐塩性・耐候性のある素材を選ぶことが、家そのものの寿命を大きく左右します。
外壁材としては、ガルバリウム鋼板、無垢の木材、モルタル下地塗り壁などが候補に挙がります。モルタル系はデザインの自由度が高い反面、クラック(ひび割れ)への対処が必要です。ガルバリウム鋼板は軽量で耐久性に優れていますが、潮風にさらされる軒下や庇の下では白サビ・チョーキングが発生しやすく、定期的な水洗いが必要です。
屋根材についても同様で、塩害に強いガルバリウム鋼板や陶器瓦など、建物の立地や形状に応じて最適な素材を選びます。軽量かつ風に強い形状、かつメンテナンス性が高いものを優先することが、台風や強風が多い湘南では特に求められます。
素材そのものの耐久性に加え、設計時に考慮すべきは「どう劣化させないか」という配慮です。たとえば、風雨の当たりやすい面には庇を出したり、汚れがたまりにくいディテールにすることで、素材の寿命をさらに伸ばすことができます。
外装は「見た目」だけで選んではいけません。環境への適応力と、手をかけやすいかどうか。この2つを軸に素材を見極めることが、湘南の家を長持ちさせる確かな方法です。
2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ②塗装や仕上げの工夫でメンテナンス性を向上
海の近くでは、日差しや塩分、湿気といった外部環境の影響を直接受ける外装部分の塗装・仕上げに工夫が求められます。湘南エリアではとくに、紫外線による退色や塗膜の劣化、塩分による浮き・剥がれが起こりやすいため、耐候性の高い塗料や仕上げ材の選定が重要です。
たとえば、木部には浸透性の保護塗料を使うことで、表面に膜をつくらずに素材本来の質感を保ちつつ、内部から保護することができます。こうした塗料は、剥がれや膨れが起きにくく、長期的な美観維持につながります。
さらに、ウッドロングエコのような「ノーメンテナンス塗料」を使用するのも有効です。これは天然素材を原料とした木材保護塗料で、塗り直しの必要がほとんどなく、経年変化を楽しみながら風合いを保つことができます。とくに、塩害や湿気にさらされやすい湘南地域では、長期的な耐久性と維持管理の手軽さを両立できる手段として注目されています。
さらに、軒の出や庇の設計と塗装の組み合わせも重要です。塗装が劣化しやすい南面や西面には庇を深く取り、紫外線や雨風から守る構造とすることで、塗装面への負担を減らすことができます。
素材の持つ風合いや質感を活かしつつ、「なるべく手をかけずに長く保てる」工夫が、海のそばの家づくりには求められます。塗装や仕上げ材は、初期費用だけでなく、日常の手入れや耐用年数といった視点も含め、総合的に判断することが大切です。

外壁はモルタル下地の塗り壁に、木部をポイント使いした「南風の家」。木部はメンテナンスフリーの「ウッドロングエコ塗装」で、木の風合いを生かした自然な質感です。

「南風の家」には外部のシャワーコーナーもあり、洗面・浴室に直行できます。
2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ③構造と納まりがもたらす耐久性の違い
湘南のような自然環境が厳しいエリアでは、建物の「構造」と「納まり」こそが耐久性を大きく左右する要素です。どれほど高価な建材を使っても、それを支える構造体や施工の細部に不備があれば、早期劣化のリスクは避けられません。
まず基本となるのは、構造躯体の剛性と耐震性です。台風や強風が多い湘南では、地震だけでなく風圧にもしっかりと耐えうる設計が求められます。壁量やバランスに配慮した構造設計は、建物全体のねじれや歪みを防ぎ、外装の割れや隙間の発生を抑えます。
次に重要なのが、水の侵入を防ぐための納まり(ディテール)の工夫です。たとえば、サッシ廻りや外壁の継ぎ目、屋根と壁の取り合い部分など、水が入りやすい部位を丁寧に処理することが、構造内部の劣化を防ぐ最大のポイントです。これらは図面や現場での細やかな設計・施工力が問われます。
また、通気層の設計も重要です。外壁の内側に空気を通す「通気工法」によって、壁体内の湿気を逃がし、構造材の腐食やカビを予防することができます。湘南のように湿度が高い地域では、この工法の有無が長期的な住宅性能に直結します。
構造と納まりは、住まいの“骨格と血管”とも言える存在です。見えない部分にこそ、建築の本質的な耐久性が宿ることを理解し、設計段階から信頼できる施工者と丁寧に詰めていくことが、湘南の家づくりでは特に重要です。
2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ④日常のメンテナンス性を考慮した家づくり
湘南での暮らしは、塩害・湿気・風による経年劣化を前提に考える必要があります。そのため、日々の手入れがしやすい「メンテナンス性の高い家づくり」は、非常に重要なポイントです。
たとえば、バルコニーや軒下、デッキ下などに点検しやすい構造を確保することで、排水詰まりや腐食の兆候を早期に発見することができます。人が手を入れられる空間やアクセスの確保が、長期的な建物の健康を守る要素になります。
外部の給排水管、エアコン配管、換気口などの設備類も、交換や補修がしやすいように露出型・点検口付きとする設計が望ましいです。隠蔽することで見た目はすっきりしますが、メンテナンス時の費用と工数が跳ね上がる原因になります。
また、ガルバリウム鋼板などの外装材は、軒の出がなく直接雨が塩分や汚れを洗い流してくれる場所はとても有効ですが、雨に当たらない軒下や庇の下では塩分が洗い流されず、白サビやチョーキングを起こしやすいという特性があります。そのため、定期的に水洗いすることが望ましく、脚立が届く高さやホースが届く位置に設計しておくと、手間を軽減できます。
住まいとは「建てて終わり」ではなく、「住みながら守っていくもの」です。その手入れが負担にならず、むしろ楽しめるような設計の工夫を取り入れることで、家との良好な関係が長く続きます。湘南のような自然環境に恵まれた土地だからこそ、日々のメンテナンスを“暮らしの一部”として考える視点が欠かせません。

沿岸地域など塩害によって起こる『白サビ』。ガルバリウム鋼板表面のメッキ層の亜鉛が酸化することで、白い斑点状のサビが発生します。沿岸地域以外でも、普段雨が当たらないような高温多湿の場所に発生しやすく、放置してしまうとどんどん劣化が進んでしまいます。

ガルバリウム表面の塗膜が劣化し、手で触るとチョークのような白い粉が付着する『チョーキング』。紫外線や雨風、熱などによって顔料が浮き出てきている状態です。
塗膜が劣化しているということは、耐久性や防水性などの保護性能が低下しており、この状態で放置しておくとサビが発生する危険性が高まります。チョーキングや色あせが見られたら、塗り替えによるメンテナンスを検討しましょう。
※海の近くで暮らすことのさらなる注意点を知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
2. 素材とつくりで差が出る、耐久性の高い家 ⑤自然素材を活かした経年変化を楽しむ家
湘南での家づくりにおいては、塩害や湿気などのリスクを抑えることが大前提ですが、自然素材を上手に使うことで「経年変化を楽しむ住まい」へと昇華させることができます。素材が持つ本来の風合いや手触りは、年月と共に味わい深くなり、住まいに独特の魅力を加えてくれます。
たとえば、無垢の床材や羽目板は、日差しや湿度に反応して少しずつ色味が変化していきます。これは劣化ではなく「育ち」と捉えることができる感覚です。使い込まれた木の表情は、家族の時間の積み重ねそのものであり、工業製品にはない個性となります。
外部では、レッドシダーや杉板などの木製外装材が、紫外線や雨風にさらされながらもシルバーグレーに変化していく様子が見られます。これも湘南の自然環境と調和しながら存在感を増していく「素材の味」として、好まれるデザイン手法の一つです。
もちろん、自然素材は手入れが必要です。定期的なオイルメンテナンスや拭き掃除など、手をかけることが前提ですが、その作業が「住まいと向き合う時間」となり、愛着を深めるきっかけにもなります。これらは単なる管理ではなく、暮らしの一部として根付いていきます。

江ノ電が眼下を通り抜ける個性的な敷地の「緑葉の家」。外壁はウッドロングエコ塗装した熊野杉のよろい貼り仕上げ。4.5帖の広々デッキにつながる気持ちの良いLDK空間です。
3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ①海辺の暮らしに合った動線設計
湘南での生活は、海との距離が近いからこそ、外と中の「つなぎ方」が暮らしやすさを大きく左右します。動線設計はそのカギを握る要素であり、自然との距離感や家族の行動パターンに合わせた配置が求められます。
特に重要なのは「汚れを家に持ち込まない」工夫です。海遊びや庭いじり、サーフィンやサップなどが日常にある湘南では、玄関に入る前に身体や道具を洗える外シャワーや屋外の水場があると非常に便利です。さらに、玄関→土間→洗面→脱衣といったスムーズな動線を確保することで、家の中を清潔に保てます。
また、屋外と屋内の“あいだ”を担う土間空間は、湘南のライフスタイルに非常にマッチします。サーフボードや自転車、アウトドアギアの収納・手入れの場として、また家族や友人と気軽に過ごせる半屋外的なスペースとして、多用途に活用できる存在です。
日々の家事動線も、暮らしやすさを左右する重要な要素です。洗濯・干す・畳む・しまうといった一連の動作が1カ所で完結するよう、ランドリールームやファミリークローゼットをうまく配置することが効率的な暮らしに直結します。加えて、外干しと内干しの切り替えがしやすい動線設計も、湘南の天候変化に柔軟に対応できます。
このように、湘南の暮らしに根差した動線設計は、単なる効率化ではなく、「自然と人との調和」を図る手段とも言えます。外と中、日常と趣味、家族それぞれの行動がストレスなくつながる住まいが、湘南の豊かさを最大限に引き出します。

焼杉貼り+モルタル下地塗り壁で外壁を仕上げた「悠遊小町」。駐車場奥(右側)に、シャワーコーナーを設置。

サップから帰ってきたら、外のシャワーコーナーで砂や塩分を洗い流し、家には持ち込みません

室内はペレットストーブのある玄関土間から、すぐに洗面・浴室、そしてウォークインクローゼットにもつながる動線計画です
3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ②趣味や仕事と共存する空間のつくり方
湘南の暮らしでは、「仕事・暮らし・趣味」が密接に関わり合う空間構成が求められます。リモートワークが普及した今、家の中に多目的なスペースを持つことは当たり前になりつつあり、仕事にも遊びにも使える“余白”をどう設計するかが鍵になります。
たとえば、個室化された書斎ではなく、セミオープンなワークスペースであれば、子どもや家族の様子を見ながら作業でき、家全体に一体感が生まれます。一方で集中したい作業には、遮音性や視線を遮る工夫も必要で、そのバランスを柔軟に調整できる設計が理想です。
趣味のスペースも同様です。サーフィン、音楽、植物、料理、アウトドアなど、湘南には多彩な趣味を持つ住まい手が多く、それらを収納・展示・作業・くつろぎの空間として活かすための工夫が家の中に求められます。たとえばガレージ一体型の趣味室や、吹き抜けを活かしたロフトなども有効です。
また、家族それぞれが自分の時間を楽しみながら、同じ空間に「居られる」心地よさも大切にしたい要素です。完全に区切らず、視線が抜けるような配置、素材感のつながり、音や光をコントロールする設計で、分かれながらもつながっていられる家になります。
湘南の暮らしには、“内に閉じすぎない空間構成”がよく似合います。仕事、遊び、くつろぎを自由に切り替えられる住まいは、心の余裕を育み、住む人のライフスタイルをより豊かにしてくれます。
3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ③外とのつながりを感じる間取りの工夫
湘南での家づくりにおいては、「外とのつながり」を意識した間取りの工夫が暮らしの質を大きく左右します。海や空、庭の緑など、自然との距離をどう保ち、どう取り込むかが住まいの快適性と豊かさに直結します。
もっともシンプルな工夫は、大きな開口部(窓や掃き出し窓)を設け、外の風景を取り込む設計です。南側にリビングを配置し、デッキや庭と連続させることで、室内と屋外が一体となった伸びやかな空間が生まれます。軒を深く取ることで日射をコントロールしながら、雨の日も外とつながる暮らしが可能です。
また、中庭(パティオ)やインナーテラスを設けることで、プライバシーを保ちながらも開放感のある住まいが実現できます。外からの視線を遮りつつ、風や光を取り込むこうした構成は、湘南のように密集と自然が共存する地域に非常に適しています。
視線の抜けだけでなく、風の通り道や音の広がりも「外との接続感」を生む大切な要素です。複数方向に開く窓の配置や、吹き抜け、スリット窓の活用などにより、空気の流れと自然光を感じながら過ごせる設計が可能になります。
湘南の自然は、四季のうつろいや天候の変化を豊かに感じさせてくれます。その変化を住まいに取り込み、日々の暮らしの背景として活かす設計こそが、湘南らしい住まいの本質と言えるでしょう。

中庭(パティオ)のある「KAMAKURAYAMA BASE」。光と風を取り込めるプライベートなこの空間は、様々なワークショップやイベントを催せるスペースにもなっています。

2階からは鎌倉の海もながめられます
3. 動線と空間構成で変わる暮らしの質 ④湘南で得られる豊かな自然と景観
湘南の住宅地は、海に近い魅力的な立地が多い一方で、隣家との距離が近いエリアや、観光地ならではの人通りの多さもあります。そのため、家づくりでは「開放感を楽しみながらも、プライバシーを確保する」設計が求められます。
ひとつの方法として有効なのが、視線の抜ける方向と遮る方向を明確に分ける設計です。たとえば、海側に大きく開き、通りに面する側は壁や植栽で閉じるなど、見る・見られるをコントロールすることで、開放的でありながらも落ち着いた空間が実現します。
さらに、高窓(ハイサイドライト)や地窓(ローサイドライト)などを活用することで、外からの視線を避けつつ、光や風を取り込むことも可能です。外の音や光を感じながら、居住空間の心地よさを保つ設計ができます。
中庭やインナーテラスも、プライバシーを確保しながら開放感を得られる代表的な手法です。屋内の延長として設けることで、外部空間を内包しながらも、視線や騒音から守られた“内に開かれた”空間が生まれます。
湘南での暮らしは、自然とのふれあいと同時に、自分たちだけの落ち着いた時間をどう守るかというテーマとも向き合います。設計の段階で周囲の環境を丁寧に読み取り、その土地に合った“開き方・閉じ方”を選ぶことが、ストレスの少ない快適な住まいづくりにつながります。

周囲を民家に囲まれながらも、外からの視線を柔らかく遮りながら鎌倉の緑と空を眺められる、明るく開放的な2階リビングの「悠遊小町」
4. 海の近くに住む魅力と現実 ①地域特性を活かした家づくりの視点
湘南で家を建てる際には、その地域の気候や風土、文化といった「地域特性」をどれだけ理解し、活かせるかが重要です。土地に根ざした設計は、単に合理性だけでなく、心地よさや暮らしやすさに直結します。
たとえば、日射の入り方や風の通り道、湿気のたまりやすさなどは、同じ湘南でもエリアごとに異なります。南面に大開口を取る設計が一般的であっても、隣地の建物や地形によっては工夫が必要になるため、敷地条件を読み解く力が問われます。
また、湘南では「景観条例」や「建築協定」など、地域ごとのルールが厳格に定められている場所も多くあります。外壁の色や高さ、緑化率に関する制限など、設計の自由度に制約がある反面、地域全体として美しい街並みを形成することにもつながっています。
地域の環境だけでなく、住む人の暮らし方や文化との調和も大切です。漁師町の伝統が残るエリア、若いファミリー層が集まる新興住宅地、高齢者の多い静かな住宅街など、それぞれの地域に適した間取りや外観が求められます。
湘南の家づくりは、「誰にでも当てはまる正解」があるわけではありません。その土地の特性を読み取り、そこに暮らす人の価値観と丁寧に重ね合わせていく設計の積み重ねこそが、地域に根差した住まいづくりの理想形です。
4. 海の近くに住む魅力と現実 ②埋蔵文化財と地盤改良 ― 湘南地域ならではの法規制と対応
湘南エリアで家を建てる際に見落とせないのが、「埋蔵文化財の包蔵地」に関する法的制限です。鎌倉・藤沢・茅ヶ崎など、歴史的な価値のある地域が多く、建設予定地が文化財保護法の対象エリアに指定されている場合があります。
このような場所で家を建てるには、事前に役所の文化財課への届け出と、必要に応じた調査(試掘や本調査)が求められます。調査の結果によっては、工事着工までに数週間から数カ月の猶予が必要となるため、設計スケジュールや施工計画に十分な余裕を持つことが重要です。
一方で、湘南の土地は砂質・粘土質・盛土地など地盤条件が複雑で、地盤改良が必要になるケースも多く見られます。表層改良・柱状改良・杭打ちなど、地盤に合わせた適切な補強工法を選択しなければ、建物の不同沈下や耐震性に影響を及ぼします。
特に、文化財調査と地盤改良が重なるケースでは、調査結果を反映して改良方法を変更する必要もあるため、地域の状況に精通した専門家と連携することが不可欠です。これには、行政対応に慣れた設計士や、経験豊富な地盤業者との連携が求められます。
湘南での家づくりは、単に「家を建てる」だけでなく、その土地の歴史や地質と向き合うプロセスでもあります。予期せぬ調査や手続きにも丁寧に向き合いながら、計画的に進めることが、安心できる住まいづくりの第一歩です。
4. 海の近くに住む魅力と現実 ③地域工務店だからできる柔軟な対応力
湘南という地域で家を建てるには、その土地の気候・地形・条例・文化をよく知る「地域密着型の工務店」の存在が、大きな安心材料になります。全国規模のハウスメーカーでは対応が難しい、細やかな地域対応力こそが工務店の強みです。
たとえば、湘南地域でよくある敷地条件(狭小地・旗竿地・傾斜地)への対応や、強風・潮風への施工ノウハウ、季節ごとのメンテナンス性を考慮した設計提案など、地域工務店は土地柄を踏まえた実践的な知識と経験を持っています。
地域に根差した工務店は、単なる建築の担い手ではなく、「その土地に暮らすための案内人」とも言える存在です。湘南での家づくりには、地域性を理解し、共に考え、共につくるパートナー選びも大切です。
まとめ
湘南で家を建てるということは、単に住宅という箱を手に入れるのではなく、自らの暮らしを自然と共に設計するという選択です。
美しい海と空、豊かな風、湿度、塩分、強い日射といった湘南特有の環境条件は、住まい手に多くの恵みとともに、それ相応の課題も与えてきます。それを敬遠するのではなく、受け入れ、どう寄り添い、どう対話していくかが、この地域での住まいづくりをより豊かにしてくれます。
塩害や湿気、風、地盤の特性などは、暮らしの基盤そのものに大きく関わります。素材の選定ひとつ、構造のディテールひとつをとっても、それが10年後、20年後の快適性や安全性にどう影響するかを丁寧に考えて選ぶことが大切です。美観を長く保ち、家を守るためには、見た目だけでなく「劣化しにくい納まり」「掃除しやすい構成」「手が届く設計」といった視点が必要不可欠です。これは設計者や施工者任せにするだけでなく、住まい手自身が理解し関与してこそ本当の意味を持ちます。
湘南に家を構える方の多くは、アウトドアやサーフィン、ガーデニング、DIYなど、趣味と共に暮らすことを求めています。だからこそ、住まいの中にも余白や余裕をもたせ、単一の用途に閉じない空間構成が必要です。ワークスペースと遊び場、収納とくつろぎ、内と外。その境界が曖昧であるほど、暮らしの選択肢は広がり、自由さが生まれます。「住まいは変化するものである」という柔軟な捉え方が、湘南らしさにも通じるでしょう。
「自分たちの暮らしをどう育てたいか」という問いに向き合い、環境を読み、土地に耳を澄ませ、素材や構法を学び、設計と施工のプロたちと対話しながら、「自分たちらしい居場所」をかたちにしていくプロセス。それは手間も時間もかかるかもしれません。しかしそのプロセスこそが、暮らしの質を決定づけ、心から満足できる住まいを育てていくのです。