Kitamura Kenchiku Kobo

COLUMN家づくりコラム

COLUMN

第12回 海のそばに暮らすための覚悟

2014. 12. 12

私の地元で、仕事場でもある神奈川の三浦半島や湘南エリアは、まさに「海を感じる」生活そのもの。大都会から見れば海水浴やドライブに行く観光地のような対象のようで、海そば移住計画を考えている読者の皆様にとっても憧れる環境と呼べるのかもしれません。
ただ、どっぷりとその環境に浸かっていると恩恵ばかりではなく、色々な苦労や悩みも日々あるわけです(苦笑)。そこで日々の暮らしではどんな弊害があるか、そしてその対策はどうしたらよいかと言った点を少しお話してみたいと思います。

塩害

まず、皆さんが何よりも気になるのがこの「塩害」ですね。海沿いでは自転車を放置すると数カ月で錆びだらけ、またエアコンの室外機などは直ぐに壊れるという話をよく耳にします。台風の翌日などは、どこのスタンドにも塩まみれになった洗車待ちの長蛇の車列が出来るのも風物詩でもあります。
台風などの暴風時には潮しぶきが内陸数キロのところまで飛んで行くのですが、それが想像出来ない方も少なくありません。

①錆び・腐食

「塩=鉄が錆びる」というイメージ通り、塩害のなかでも一番深刻な問題が錆びや腐食です。住宅でサビが気になるのは鉄素材ですが、近年では「カラー鉄板」から耐久性が向上された「ガルバリウム鋼板」という製品に取って替わりました。より耐久性を求めるならば高価ですがステンレス製の商品も随分と増えています。ただ、ステンレスといっても純度などの違いもあり、錆びにくいということでメンテナンスフリーではないのでご注意を。
そして将来のメンテナンス時期には是非、耐塩性の高い塗装処理を施すことをお勧めします。

海の見える家の庭から見た外観

海の見える家の庭から見た外観

また、窓や玄関サッシ・ベランダの手すりなど住宅に大変多く使われているアルミニウムは錆びとは無縁と思われがちですが、塩分や大気中の汚染物質による浸食で酷い場合には穴が空いた事例もありますので、日頃からしっかりと雑巾などで「水ぶき+から拭き」をする習慣を付けてください。

このように日々の暮らしでは塩水やしぶきがついたら至極当たり前のことなのですが、すぐに拭き取りや、洗い流してあげることが長持ちをさせる最良の手段なのです。出来れば塩水が乾かないうちにホースなどで外廻りを洗車のように流してあげたいところですが・・日々の忙しい中でそう簡単に出来ることではありません。ですので、せめて年数回来る台風後だけでも良いので、洗車する時間が有るなら、いや無くても是非「洗家」をお願いしたいですね(笑)。

その掃除の際の大切なポイントをひとつ。実は雨が当たる場所よりも普段雨が当たらない場所(軒下やポーチなど)を優先的に掃除してほしいのです。何故なら、雨が当たらない場所はこびりついた塩分や大気中の汚染物質が雨で洗い流されずにそのまま残るため、結果として腐食を進行させてしまうのです。雨ざらしの方が良いというのも妙なハナシですけどね。

また建物以外で言えばエアコンの室外機や給湯器などの外部住宅機器は特に塩害に弱いと言われています。外廻りが錆びるというよりも、内部の基盤等の部品が先に壊れることが多いので、現在では沿岸距離に応じた耐塩害仕様なるものも販売されていますから工事業者さんなどに購入時に相談してみてください。
このような機器や車などを海風が当たりにくい建物面に計画をするだけでも随分と持ちに違いが出てきますので設計や施工する方としっかりと吟味してください。

②ガラス掃除

潮風が飛んでくるお宅では一番切実な悩みかもしれません。サッシのガラスについた潮水やしぶきは粘り気をもってべっとりとへばりついてなかなか乾きません。強風の度に透明ガラスが曇りガラスのようになるので、否が応でもガラス拭きは日常仕事ですので、しっかりと覚悟しておきましょう(笑)。

③洗濯

海の見える綺麗な芝生の庭に洗濯物がはためいているイメージをもつ人もいるかもしれませんが、風が無い日でも塩気をふくんで湿気っぽいことも多いので、べとついてパリッと乾きにくいことがあります。同時に後述の砂害も関係するもので、共働き家庭でなくても家の中に物干しスペースをしっかりと計画しておく必要があります。

④植栽

海を感じながら暮らす家ならば、やはり外構や植栽の計画にはこだわりたいですよね。憧れのシンボルツリーをどの木にしようかなど夢も膨らみます。でも台風が来るたびに、海沿いから数キロ内陸の山々にまで渡り、海風の当たる山面だけが茶色に変わるほどの木々の枯れが毎年起こります。ガーデニングの雑誌で見た優しい葉ぶりの木々を沢山植えたいところですが、せっかく新緑や初夏の季節に海からの強風が吹く度にお庭の葉が枯れ落ちてしまっては悲し過ぎますよね。
是非、海のそばの環境にあった自生している木々や塩に強い樹種を選ぶことをお勧めしたいので、地域の海風や環境を熟知した地元の造り手や造園業者・ガーデニングデザイナーさんに是非相談してください。

植栽も塩をかぶったら、出来るだけ早く水をかけるのが得策です。もし茶色くなっても樹種によってはその枯れた葉をわざと落とすことで新芽が出るなど復活する場合もあります。要は早い応急処置次第といったところでしょうか。

海の近くの庭には地域に自生している酒類か、塩に強い種類を選ぶのが得策

海の近くの庭には地域に自生している酒類か、塩に強い種類を選ぶのが得策

砂害

砂浜がある平坦地のような住宅街では、夏の風が強い時に網戸にしておくと家の中が砂だらけになることもしばしば。気密性の高いサッシでも隙間から入り込んできますし、掃き出し部などは砂だまりになり、そのままにしておくとサッシの戸車やレールが摩耗されてしまうなど、一般の住宅に比べてこの手の部品の消耗は早いと言えます。またPCやオーディオなどの精密機械の置き場所などにも配慮が必要です。
都心の熱帯夜やクーラーなどとは無縁の「涼しい海風を感じながら寝る幸せ」は海そばでの暮らしの特権ですが、せっかく良い風が吹いていても布団の上が砂混じりでは、窓を閉めざるを得ない日もあるわけです。

風害

まさしく大海原からの強烈な風を受けるエリアでは当然、家づくりには充分な配慮が必要になります。構造的なものはプロにお任せ頂くとして、皆さんに考えておいて頂きたいのが飛来物による窓ガラスの破損や暴風時の恐怖などをどう捉えて暮らし、何で対策したいかという点です。最近の住宅スタイルでは雨戸やシャッターをつけるお宅が減り、その場合は防犯を兼ねた強化ガラスを採用するなどの対風対策が主流です。ですが、たとえ薄い鉄板の雨戸でも無いと安心して眠れそうにないという意見も良く聞きますので、永く暮らす家となるわけですから、自分達の生活スタイルとデザイン性や機能性を良く吟味しながら、自然とどう向き合うか是非慎重に考えてみてください。

さて、色々と「害」だらけで脅かしたような今回のご感想はいかがでしょうか?(笑)
とにかく、自然と寄り添って暮らすことは、やっぱり「ひと手間」かかるというわけですね。
海のそばの暮らしが少し怖くなった方もおられるかもしれませんが、漠然と憧れたり、数回遊びに来たりというだけでは気づかない点が想像以上にあることをまずは知って頂いた上で、素敵な海そば生活を目指してもらいたいと思ったわけです。勿論「海のそばに暮らす」という事のこの上ない大きなメリットは私が今更お伝えする必要もないわけで、是非これらの弊害をしっかりと受け止め、むしろその不便さを楽しむかのごとく、快適な海そば生活を目指して土地探し&家づくりを頑張ってください。

( 雑誌「バイ・ザ・シー」32号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)

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