Kitamura Kenchiku Kobo

COLUMN家づくりコラム

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第20回 木のリノベーション その②

2014. 12. 19

前号ではリノベーションの計画ポイントをお話しましたが、気に入ったプランニングなどができても、建物自体はあくまで無機質な鉄筋コンクリートのハコモノです。お酒落な店舗やSOHOとは違い、住宅雑誌などで目にしてきた「無垢材や自然素材に囲まれた心地よい暮らし」に憧れている方達にとっては到底諦めきれない点なのではないでしょうか。
そこで前回のリノベーション計画ポイントを踏まえた上で、普段の戸建て住宅を手掛けるのと同じように、室内を無垢材と自然素材で仕上げる今回のテーマとなっている「木のマンションリノベーション」を提案しています。

マンションだからこそ「無垢床」のススメ

通常、マンションの組合規約などで厳しい遮音性などを要求されるので、フローリングは、裏にクッションが付いて踏むと沈むような合板のフローリングが殆どのマンションに使われています。このことから無垢のフローリングなど使えないと思っている方が多いのではないでしょうか?

普段、私が手掛けている対策は木毛セメント板という専用の遮音下地材を敷き詰めた上に無垢材を貼るという手法を取っています。これで殆どのマンションの管理規定の遮音等級をクリア出来ており、新建材しか採用できないと思っている皆さんにとってはリノベーション後の空間を見て「マンションでもこんなことができるのか!?」と言われることも少なくありません。

ただ、ここで注意したいのは、民間試験場で取ったデータをもとに遮音等級をクリアした商品だからといって安易に採用すると、組み合わせによりますが実際の施工ではデータ通りの性能を発揮できない可能性も十分にあります。床材は一度貼ったらそう簡単に張り替えが出来ないので値段や施工性の良さなど安易な判断をされずに、依頼した設計者や施工者にもしっかりとデータの意味や根拠を吟味してもらうことをお勧めします。

さて、ここで実際のマンションに無垢フローリングを採用した施工例をご紹介します。
(写真①)
こちらは厚さが3cmある幅広の国産杉板を採用しています。マンションは戸建に比べて室内の冷え込みは少ないのですが、それでもやはり複合フローリングとは冷たさは雲泥の差。無垢フローロングは断熱性に優れているので温かさは勿論ですが気密性の高い室内の反響音を吸収してくれたり、マンション特有の湿気の調整にも大きく活躍してくれます。

私の手掛ける現場は湘南工リアの海のそばが多いのですが、床が無垢材に変わるだけで潮風などによる床のベタつきも随分と変わってきます。また、床材質は少々限られますが無垢フローリングであっても、戸建と同様に床暖房も敷設することが出来ますので暮らし方に合わせて選ばれると良いでしょう。

写真① 無垢材のフローリングと漆喰コテ塗りの室内

写真① 無垢材のフローリングと漆喰コテ塗りの室内

自然素材に包まれた空間に

無垢床に加えて、壁・天井を木材や自然素材(珪藻土や本漆喰、紙貼りなど)にすることで、マンション特有の悩みである湿気やカビっぽさが改善され、また素材の優れた吸音性で反響音も減ります。特に北側の部屋や洗面脱衣室・トイレなどには特に配慮が必要です。また、フローリング同様に、畳などは特に体に近い場所なので、化学染料などで着色された輌入物ではなく、天然泥染めの国産イグサをお勧めしています。

気密性の高いマンションだからこそ、健康を脅かすような素材を避けて、より安心できる天然・自然素材を求めてこだわって頂きたいところです。(写真②)

写真② 18cmという幅広の杉フローリングが素材としての存在感を醸し出しています。カウンター類も無垢杉材を剥ぎ合わせて統一感を持たせています。

写真② 18cmという幅広の杉フローリングが素材としての存在感を醸し出しています。カウンター類も無垢杉材を剥ぎ合わせて統一感を持たせています。

自由な空間に生まれる個性あるしつらえ

さて、マンションはコンクリートの箱だとお話しましたが、スケルトンに戻すと本当に空っ箱の状態です。構造的な縛りがないため、室内の間仕切り方や壁の場所・厚みなどは自由。今までのマンションといえば「風通しが悪い・暗い」でしたが、そろそろこれらのレッテルを外して、建売住宅以上とも言える画一的だった間取りの呪縛から解放されましょう。そうすれば、本物の仕上げ素材達と相まって、快適で楽しい暮らしを手に入れることが出来ると思っています。(写真③)

写真③ 暗く狭かった玄関に視線の抜けをつくり、明かりを取り入れて自転車やベビーカーを置ける広い玄関土間に。壁は漆黒塗、土間仕上げは応用珪藻土を採用。

写真③ 暗く狭かった玄関に視線の抜けをつくり、明かりを取り入れて自転車やベビーカーを置ける広い玄関土間に。壁は漆黒塗、土間仕上げは応用珪藻土を採用。

●間取り

まずは何よりも如何に自然の風道を造るかが肝心です。引き戸や欄間を採用して淀みのない間をつくるのは効論、スムースな家事動線も忘れてはなりませんね。そして平面だけではない、縦方向を考えたリズムのある空間をつくることでメリハリのある室内になっていきます。(写真④⑤⑥)

写真④ 二方向に開け放てる和室は床を一段上げて腰かけにもなっています。段差を利用して沢山の収納量を確保。

写真④ 二方向に開け放てる和室は床を一段上げて腰かけにもなっています。段差を利用して沢山の収納量を確保。

写真⑤・⑥ 耐久壁が不要なので間仕切りを減らし、可変性のある子供部屋へ。家族の成長や変化に合わせて可動収納を使って自由に仕切ることが出来ます。

写真⑤・⑥ 耐久壁が不要なので間仕切りを減らし、可変性のある子供部屋へ。家族の成長や変化に合わせて可動収納を使って自由に仕切ることが出来ます。

●造作家具・什器

空間が自由ならば設備や什器も型にはまる必要もありません。キッチンや洗面コーナーなども大工造作によってひとつのオリジナル家具のようにしつらえて、部屋に統一感を持たせることが出来ます。メリハリを持って必要なポリュームでしつらえると家事も楽しくこなせると思います。(写真⑦⑧⑨⑩)

写真⑦ 洗面室は窓が取れないことが多いので、鏡を大きくして閉塞感を無くし、シンプルな収納構成で清潔感のあるスペースに。

写真⑦ 洗面室は窓が取れないことが多いので、鏡を大きくして閉塞感を無くし、シンプルな収納構成で清潔感のあるスペースに。

写真⑧ ジメジメしたイメージのある水周りを珪藻土や無垢材で仕上げ、それぞれの狭い空間をひとつにまとめて明るく淀みのない空間にした例。

写真⑧ ジメジメしたイメージのある水周りを珪藻土や無垢材で仕上げ、それぞれの狭い空間をひとつにまとめて明るく淀みのない空間にした例。

写真⑨ 天井高や素材を変えて単調な室内をリズムのある空間に。柱・梁の凹凸を利用して収納や什器をすっきり納めました。

写真⑨ 天井高や素材を変えて単調な室内をリズムのある空間に。柱・梁の凹凸を利用して収納や什器をすっきり納めました。

写真⑩ 明るく風が良く通るオープンキッチン。家具や扉の素材と合わせて大工造作による完全オーダーでしつらえています。

写真⑩ 明るく風が良く通るオープンキッチン。家具や扉の素材と合わせて大工造作による完全オーダーでしつらえています。

写真⑪ 廊下の余白を利用して壁面収納を制作。家族全員のブックコーナーとしました。

写真⑪ 廊下の余白を利用して壁面収納を制作。家族全員のブックコーナーとしました。

●収納

限られた平面空間のマンションで収納量を確保するには綿密な計画が不可欠です。縦の空間を利用して収納を生みだしたり、写真⑤・⑥のような可動収納家具を多用することで適所に必要な収納を確保しましょう。また、RC造特有の梁・柱の凸凹部分を逆手にとって本棚等を取り付ければ無駄がなく綺麗に収まります。(写真⑤⑥⑨⑪)

温もりの空間へ

このように間取りを自由にし、木や自然素材の内装をふんだんに用いることで、ついコンクリートの無機質な箱の中で暮らしているのを忘れてしまえるとしたら最高ですね。まるで「木の家」に住むがごとく、気に入った素材に囲まれて「気持ちのいい日々の暮らし」が叶うマンションリノベーションに可能性を感じてもらえたら幸いです。

( 雑誌「バイ・ザ・シー」40号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)

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