第11回 畳の間
2014. 12. 11
唐突ですが、都市部にある「普通」と呼ばれる家には妙な定石というべきか、画一的な間取りが存在します。
どんなものかと言えば・・
「玄関を入ると正面には階段があり、両脇には3つの扉。居間とトイレのドア、そして一番近い引き戸を開けるとあまり使われていない純和室の客間が・・」
皆さんもこんな間取りをよく目にしているのではないでしょうか?
高度成長以後、このように客間として構えていた和室がほぼ定石化されて残ってきました。でも、サザエさん家のような来客の多いお宅はそうは無いわけで(笑)、「娘さんを私にください!」的な儀式や葬儀などの場としての役目も減った十数年、家づくりの変化と共にその客間や純和室も様々な畳の間に生まれ変わってきたわけです。
ちなみに私が手掛ける家の施主さんは、土地の購入からスタートし、述べ床面積30坪前後の家を建てる子育て世代のご家族が多く、決して間取りに余裕があるわけでもありません、勿論ご予算も・・(苦笑)。でもそんな皆さんからの「畳の間」の要望は常に上位組。具体的には「せめてひと部屋だけでも畳を敷きたい・・」・「親類や友人家族が泊まれる畳部屋かスペースが欲しい」という要望などが多く、和室は要らないけど畳の間は欲しいと。
ご存じのように戸建だけでなく最新の分譲マンションでもLDKの隣に畳部屋がつかない物件を探すのが大変な程定着していますよね。リビングとひと続きの定番スタイルという間取りは便利というだけでなく、室内を広く見せることが出来るのも魅力のようです。
このように真壁造りなどの伝統のしつらえから「畳スペース」へ変わってきたわけですが、今ではいろいろなスタイルが見受けられるようになりました。そこで私が手掛けた事例をいくつか交えてご紹介してみましょう。
畳LDK
これはまさに畳部屋をLDKに付加した(並べた)定番のスタイル。
独立性も持ちつつ一体感を出した間取りで、引き戸で閉じれば小部屋にもなり、4人家族が泊まれるようにすることが多い。一番マルチな使い方ができる定番の間取りでもあります。
畳リビング
リビングの床を畳敷にした座式スタイル。ソファや椅子を置くと窮屈になる場合にはとても有効。床の高低差を付けることで、畳に座った時の沈み込み感を消すと共に、空間のメリハリやリズムを生みだします。
下の写真はDK部分でスキップさせて目線を揃えたタイプ。どちらも引き戸で仕切ることが出来るようになっているので、他に泊まれるスペースが無いお宅でも、居間を客間にすることも出来ます。
タタミコーナー
コーナーという名のとおり3~4帖ほどの大きさで、主にLDKの中に計画します。
下の写真は掘り座卓式のスタディーカウンターと大きなサイド収納のあるコーナー。整理整頓もしやすく、お子様方はいつもこの畳の上に佇んでいます(笑)
いくつかご紹介しましたが、これらのコーナーは生活動線に絡まないので、こちらの写真のように室内物干し場としても活用されています。このお宅では収納式ワイヤーを用いて使いやすさと見栄えに配慮しています。
また、どのタイプにも共通していることは床の段差をつけていることです。畳スペースはテーブルやソファのそばにあることが多いので、床を上げて互いの目線を揃えることで落ち着きを与えます。また、この段差を利用して引き出しを造り、リビングに散らかるような小物や寝具類を仕舞うなどの収納としても大変重宝されています。
室内には椅子やソファなど、他に座る場所があるにもかかわらず、自然とその段差の縁に座ってしまうという不思議な魅力を持っていて、それは普段の生活においても居心地の良い腰かけとして使われています。
このようにタタミコーナーは、時には書斎や家族の勉強机に、子供が寝込めば布団を敷いて介抱したり、洗濯物を干したり畳んだり、ぼ~っと昼寝も出来たり、いずれは介護スペースになるかもしれない……。このコーナーは小さな空間づくりの中では優れたマルチスペースと言っても過言ではありません。
改めて「畳」一考をしてみると、昔ながらに和室を田の字型に配した間取りは、汎用・可変性に優れ、まさにマルチスペースの塊だったわけで、世代交代をどっしりと受け止めることが出来る仕組みをもう一度見直して、現在にアレンジしたいと常々思っています。
日本人なら誰でも感じる畳への愛着。あの柔らかい足触りや寝ころんだ時の気持ちよさ、そしてイグサのいい香り。無垢の木や自然素材に囲まれた空間は理屈で語れるものではありません。
皆さんも、ご家族ならではのふさわしい「畳のある暮らし」を見つけて楽しい家づくりを進めてみてください。
( 雑誌「バイ・ザ・シー」31号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)