Kitamura Kenchiku Kobo

COLUMN家づくりコラム

COLUMN

第1回 土地探しのバディ(パートナー)

2014. 12. 01

この連載の依頼を受けた時、家づくり初心者の読者向けのお話なんてものはどこの住宅雑誌の巻末を見ても毎号のように書かれているわけで、今更何を書くのだろうと…(笑)。でもどうやら持論で構わないとの事。人と違うのを喜びに感じる変わりモノの「左利き」だから白羽の矢が立ったのかもしれない。

そんな私も実は海のそばに住んでいます。湘南などのブランドエリアではなく、東京湾沿いの街にある自宅兼事務所から数分のボートパークに20フィートの小舟を置き、釣りに没頭するわけでもなく当てもなく海の上に浮かんでいる…そんな程度の”海へのこだわり”を持った四十半ばのオヤジである。

さて、そんな私の得意とするところは「家づくりにこだわること」。”海のそばに暮らすならば家にもこだわりたい”という方を勝手ながら読者に見立てて、日々のブログと変わらないスタンスで書かせて頂きますので少し偏った「左利き」目線は予めご了承いただきたく願います。

まずは土地ありき!?

海のそばに暮らしたい方にとって「土地探し」は茨(いばら)の道でもあります。何故なら、資金が無尽蔵な方はともかく、夢見る庶民にとっては「海のそば」は、街中の土地に比べて不便にもかかわらず人気があるので”価格が高い”という上に、”案件が少ない”というハードルを乗り越えなければいけない。だからどうしても土地探しが最優先となって、それに没頭せざるを得なくなるのかもしれません。

私はクライアントと一緒に土地探しをすることも多いのですが、事務所にお問い合わせを頂く半数以上の方は既に土地を決めており、ローン条件等の理由で家づくりのパートナーを慌てて探されているようです。

その中には「幸運にも気に入った土地が急に出たので」という方もおられるでしょうが、「まずは土地が決まらないと何も進まないのでは」「土地探しだけで精一杯で家のほうには頭が回らない」という意見が大半です。建築条件の要らない土地や、依頼先を多くの情報源から探すことが出来る良い時代にはなりましたが、大勢の方々が資金計画もおぼろげで建物の情報を整理できないまま家づくりを進めています。実際にこのような問い合わせが止みません…。

「土地はもう決まっています。残予算からして建築費用は〇〇万円ですが、これで立派な家が造れると聞いていたのですけど、お宅ではどんな風に造れますか?借り入れの条件で〇ヶ月後には完成しなければならないのですが」…という風に。超ローコスト住宅でも難しいような費用でも夢やこだわり、そして素材などフルスペックで求められる事も少なくない。それも工期を逆算すると計画の時間が驚くほど少ないのです。
その度に「あ~ぁ、買っちゃったのか…」とよく心の中でつぶやいています…(苦笑)。

理想と現実のギャップ

家族の夢だった一大事業が何故、希望が先細りしてしまうのでしょう?その一番の問題は土地と建物の「費用バランスの悪さ」にあります。
問題なのは、施主さん自身が建物に求めるスペックやこだわりに見合った建築費をイメージできていないまま、「まずは土地ありき」と必死になって、日当たりや駅徒歩〇〇分といった条件だけを元に土地探しに明け暮れ、「一生モノだから」と無理をして土地を決めてしまうことです。

その結果あとで現実とのギャップに直面することになるのです。でもそんな場合でも誰もがこう言いたいのでは?「家族が安心して健康に暮らせる家が欲しいだけなのに」と。
ですがその「それだけけなのに」が造り手にとっては「どれだけなんだよ」となるのがホンネの話。さて、そのお互いの温度差は一体どの時点から開いてきたのかを皆さんはもう一度考えてみてください。
そしてその「それだけしか望んでいない」という想いが悪戯をするのです。

面白い事に予算オーバーの土地を決める際には誰もが妙に楽観的になるようです。欲を出さずに建物でメリハリをつければ百万円や二百万円くらいなら何とかなるだろうといった風に。残念ながら土地のように家の見積もりは簡単に減額できるものではありません。何故なら、坪数は減らしたくない・構造や素材にも配慮したい…そんな”せっかくだから!”という妖怪に憑りつかれた施主様を呪縛から助け出せる救世主はそう多くはないのです。

土地を読む「チカラ」

勿論、TV番組のようなドラマチックな提案で解決出来ることもあるでしょう。まあ、あそこまでの演出は如何なものかとしても、設計する側からすれば特殊な土地や難条件を与えられるほど、それらを逆手に取って「面白い家づくりが出来るぞ!」と設計魂に火が付くわけで、施主さんがそれを頼みの綱にするのも一つの道です。

最近の住宅雑誌にはそのような超個性的な家が満載ですね。ただし、成功するためにはゆるぎのない理解と覚悟が必要になるので全ての人に対して良薬とはなりません。
実際のところは非凡を求めつつも、多くのお施主さんは至って「平均的日本人」(失礼!?)なわけで、家族の要望をまとめた結果、全てのスペックにホドホドを望まれるご家族が大半ではないかと思うのです。
そこを無理強いしてしまうと設計者の独りよがりの家になって「デザインは良いけど住みにくい」というよく耳にする話になるのです。

少し話が逸れましたが、とにかく夢が先細りになるようなリスクを減らし、ご自分に合った土地探しを安心して進めるためには、資金・物理面においても夢やこだわりを具現化できる土地かどうかを見極めるために、建築のプロとしての客観的な目線がどうしても欲しくなるのです。具体的に言うと、一見安そうな土地でも実際に建物を建てる際に擁壁の造り直しや土工事等の想定外の出費の可能性がないか、立地上工事費が割高にならないか、そのように家づくりを総合的にチェックしながら「土地を読む」のです。

土地が南向きであっても、周囲の環境で日中は土地のどこまでが陽に当るのか…建物の形状をイメージして風の通り方はどうなのか…等というようなあらゆる視点から吟味しています。

皆さんが最初はピンと来ない土地であっても、様々な角度から吟味する事によって、魅力ある土地に変わるかもしれません。そうなれば安くて面白い土地を手に入れて個性的な家づくりを楽しむことが出来ることもあるのですから。

ゴールを見据えて

ここ数年、土地探しのサポートを謳うビルダーや設計事務所も多くなりましたが、世間の常識としては、土地は不動産屋さんに相談して探してもらうという事に変わりはないでしょう。勿論、情報源やローン・宅建取引等の専門家としての不動産屋さんの役割は大きいので決して存在を否定するつもりもなく、以前と変わらず頼りにすることには変わりありません。

家づくりにおいて”土地を買い、家を建てる”といったひとつながりの一大事業を成し遂げる為には両者のプロの力を借りて総合的に判断する必要があることを知って頂きたいのです。膨大な情報の波をかき分けて進むには一貫してサポート出来るパートナーが不可欠です。

家づくりのどこから手を付けて良いか分からないご家族を大海に浮かんだ小舟と例えるならば、目的地まで迷わずに無事に舵取りが出来る水先案内人が必要なのです。それは同時に自分の運命を託すことが出来るバディ(相棒)でもあります。

気に入った物件を購入するかどうか待ったなしの決断を迫られ、迷いを許されない時、相談する相手は誰にしますか?家づくりの同志であるバディの有無の違いは大きいかもしれません。

そこで大切な事は、何よりも家族のこだわりや優先順位を決めるための話し合いを持っておくこと。何を大事にして土地を選び、家を造るのかというポイントを整理して、その想いを共有できる設計者や造り手の中から少しでも早く自分達のバディを探し出して、一緒に悩みながら土地探しをすることが後悔しない家づくりの入り口であり王道だと思います。

皆さんが何にこだわるかによっては、結果として周囲から非常識と言われるような家づくりになるかもしれません。ですが皆さんが大事にした個性やこだわりで選んだものが”唯一無二の常識”だなんて素敵なことではないでしょうか。皆さんの目指す家づくりが砂上の楼閣にならないようしっかりとゴールを見据えておいて下さい。ゴールは「海のそばに土地を買うコト」ではなく「海のそばで気持ちよく暮らすコト」だという事をお忘れなきように。

 

( 雑誌「バイ・ザ・シー」21号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)

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