Kitamura Kenchiku Kobo

COLUMN家づくりコラム

COLUMN

第9回 パッシブデザイン②

2014. 12. 09

家づくりを考えている皆さん方のヒアリングをすると必ずと言っていいほど「風通しの良い家にしたい」というご要望が上がります。それに増して今夏のような節電意識の高まりによってエアコンを控えたりと、よりその必要性を感じられたことでしょう。ですが現実は都市部などの密集地では「窓を開けても風なんか通らない・・」と言ったところでしょうか。
でもあきらめるのはまだ早いのです。そこには自然の力をうまく利用するパッシブデザインという手段が残されています。そこで今回はパッシブデザインの多くの手法の中から、この自然の風を生かすデザインとは何があるのか、実際どう設計に取り入れているか実例を入れながらお話してみたいと思います。
まず、自然の力を利用するには自然の定理を理解することが重要で、その定理にかなった間取りや建物の形を計画して頂きたいのです。その計画を進めるために何よりも必要なのが皆さんのような住まい手に、まず理解し賛同してもらうことです。そこで「自然風というエネルギーを生かす」ための具体的手法をいくつかご紹介していきます。

① 直接的に自然風を取り込む

実はこれは皆さんが日常行っているごく普通の風の入れ方のことですが、ここで大事なことは「卓越風」(※)などの地域・季節特有の風の特徴を生かすということです。方位や敷地形状・高低差も考えた上で、建物を配置し、卓越風を真正面から取り込める窓などを多く設ける。もちろん、風がしっかりと通り抜けるために出口となる窓の大きさや種類、そして配置の配慮が不可欠です。(図1)
※卓越風とは、局地風とも呼ばれ、その地域で季節ごとに吹く風のことです。風向きや速度などがデータ化されていて、誰でも調べることが出来ます。そのデータを利用して建築する地域の風の特徴をとらえる計画が我々に求められています。

② 間接的に自然風を取り込む

建物の周りを通り抜ける卓越風などを袖壁や開き窓・出窓・ドーマー窓等(ウィンドウキャッチャーと呼ばれます)を利用して室内に取り込む手法。特に外壁に卓越風が当たらないような密集地などでは、周囲をすり抜けてくる風をどれだけ有効に取り入れられるかが鍵になります。(図2) ①の手法が難しい場合にはより有効な手段です。

③ 屋根面の圧力差を利用して自然風を取り込む

屋根面の風圧係数が負になる部分に天窓やハイサイドライト(頂側窓)等を配して室内の空気を動かす手法。3寸勾配以上の一般的な屋根の角度では(図3)のように頂側部に負圧(吸い出しの力)が生まれ、室内の空気が外に吸い出られるというわけです。これにより、最上部の窓から暖められた室内空気が排出され、下部窓から外気が流入して室内を冷まします。そしてこの上下に開けた窓の高低差があるほど上昇気流の原理で空気が動きます。また屋根勾配が非常に緩く、屋根面に十分な風が当たる場合は、屋根に直接開ける「天窓」の設置が有効です。

④ 温度差を利用して換気する

これは自然に吹く風を利用するのではなく、空気は冷たいところから暖かいところへ流れるという自然対流の原理を利用しています。夏の場合では昼間は日陰の涼しい北側の空気を中心に取り込んだり(図4)、夜の外気温が室温よりも下がる時は温度差による外気の取り入れが可能になり、前述の③と同じように上昇気流が生まれて自然と換気が行われるというわけです(図3)。

⑤ 室内の通風性を確保する

基本計画では平面・立体面ともに室内の空気が淀まないように配慮した開放的な間取りにすることが大切です。部屋で仕切ったとしても出入り口などに引戸や欄間等を採用することで室内の風の通り道を確保します。

下写真は、開放的な階段室を家の中心に計画した例。階段室や吹き抜けは出口となる高い窓へ風を運ぶ大事な上昇気流の道となり、夏には全ての部屋から風が吹きあがっていきます。

引き戸は通行等の妨げにならず、開口量を微調整することもでき、天井までの高さにすると空気だまりを解消するメリットがあります。また、欄間は下部の扉を閉めていてもプライバシーも確保しながら通風ができる優れモノですので是非採用してもらいたい工夫です。

⑥番外編 防犯性と通風性の両立

前述のような対策が出来ても、さすがに網戸のままでは安心して寝るわけにはいきませんね。簡単なようで頭を悩ますのが、通風と防犯性の両立ですが、幸いここ数年で様々な商品が充実してきました。引違い窓であれば可動ルーバー雨戸や通風シャッター、小窓などでは開放ストッパー付きや面格子付きの窓を採用します。

以上、5つほどの手法をご紹介しましたが、物理の授業のようなところもあり、少し難しい話に思えたかもしれませんね。でも私たちが実際にやるべきことは至ってシンプルです。どの手法にも共通することは
「自然の原理に従って、窓を開ける位置をよく考え、入口と出口を忘れずにしっかりと造ること」
だと思います。このような手法をしっかりと採用するだけで、たとえ風の無い酷暑の夏の夜でも寝苦しくない、快適でエアコンいらずの生活が実現できると考えています。

ちなみに写真でご紹介したこちらのお宅にはエアコンは一台もつけていません。

そしてこのパッシブデザインを生かせるかどうかは、皆さんの日々における「少しの手間」や「暮らし方」次第ということです。是非自然の原理を利用した省エネルギーの気持ちの良い暮らし方を実現してください。

( 雑誌「バイ・ザ・シー」29号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)

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