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セルロースファイバーが最強断熱材と言われる理由

2020. 11. 26家づくりガイド毛利陽子

今年もきびしい猛暑が過ぎ去ったと思ったら、一気に冷え込むようになり、気温の変化についていけない、、という方も多いのではないでしょうか。

住まい手の命・健康をしっかりと守ることも、住宅の大切な役割です。
夏は涼しく、冬あたたかい快適な温熱環境が少しのエネルギーで得られること、そしてその性能が、劣化せずに長く維持できること。それが、住宅性能の基本です。

今回は、住まいの断熱性能に大きく影響する「断熱材」の中から、「セルロースファイバー」についてご紹介したいと思います。

どんな素材なの?

セルロースファイバー、あまり聞きなれない名前ですよね。
こちらは、アメリカではシェアNO.1の天然木質繊維の断熱材です。

新聞紙の古紙を裁断・攪拌して綿状にしたもので、難燃剤としてホウ酸を加えた、つまりは新聞紙をリサイクルして作られた再生品です。
限りある資源を有効活用しながら自然の力を生活に生かす、人と家と地球にやさしい断熱材です。

では、セルロースファイバーのその実態を見ていきましょう。

新聞紙の古紙を再利用した断熱材・セルロースファイバー

新聞紙の古紙を再利用した断熱材・セルロースファイバー

高い断熱性能と言われる理由は?

天然繊維であるセルロースファイバーは、1本1本の繊維の中にたくさんの小さな空気胞(多孔性)を持っており、さまざまな太さの繊維が絡み合ってさらに空気の層を作ることで、より一層熱を伝えにくくしています。

具体的に数字で比較してみましょう。

断熱材の断熱効果を表す数値として、熱伝導率という数値があります。
熱の伝わりやすさを数値化したもので、熱伝導率が低ければ低いほど、断熱材としての性能が高いという意味です。

セルロースファイバーの熱伝導率は、実のところ、その他の断熱材とあまり変わりません。
一般的に良く使われている他の断熱材と比べてみると、

グラスウール0.05  > セルロース0.04 > ウレタンフォーム 0.026(W/mK)

と、数字としてはグラスウールとウレタンフォームの中間ぐらいの性能です。
「なんだ、たいしたことないじゃないか」
と思われた方、少々お待ちください。

断熱材が高い断熱性能を発揮するかどうかは、熱伝導率の他に「断熱材の厚み」「施工精度」が関係してきます。

 

①断熱材の厚み
断熱性能は「熱貫流率(以下U値)」で表すことができます。
U値は、温度差のある空間(外部と室内など)を隔てる材料(屋根・壁・窓)の熱の伝えやすさを表す数値です。
U値が小さいほど熱が逃げにくい=断熱性能が高い という意味です。
計算式は以下の通り。

U値=1/熱抵抗値 R=1/(厚み(m)÷熱伝導率(W/m2・K))

この式から、
「できるだけ熱伝導率の低い(断熱性能の高い)断熱材を、できるだけ分厚く確保することが重要」
だということが分かります。

例えば、標準的な外壁の断熱性能であるU値0.5W/m2・Kの壁を作るためには、
グラスウールは100mm、セルロースファイバーは80mm、ウレタンでは52mmの厚みの断熱材で実現できます。
試しに断熱材以外の素材で計算すると、アルミニウムでは472m、コンクリートだと3.2mも厚みが必要です。
さすが断熱材という結果ですね。

 

②施工精度
続いて、断熱材が本来のパワーを発揮するためには、断熱材が正しく機能していることが大前提です。
そのためには「施工精度」、つまりどれだけ隙間なく丁寧に断熱材を施工できるかが重要になります。

グラスウールなどのマット状やボード状の断熱材は各現場の大工が施工しますが、これを隙間なく、ゆるみなく、ピシッと施工するにはかなりの技術が必要なため、施工技術のレベルによって気密性が大きく変わってしまいます。

それに対してセルロースファイバーは、先に断熱施工面をシートで覆い、その中に決まった密度以上になるまで吹き込んでいきます。
細かく粉砕された繊維なので、隅々まで行き渡り隙間なく施工することができる上に、専門業者による責任施工なので、施工レベルのバラつきもありません。

セルロースファイバーの高い断熱性能を実現する強みは、
この高い気密性能を確保するための施工精度にあると言うわけです。

施工面に不織布シートを貼り、1〜1.2mぐらいの間隔で穴を開け、ホースを差し込んで1スパンずつ隅々まで吹き込みます。作業で開けた穴はシートで塞がれ完了。高密度に重点しているのでパンパンです。

施工面に不織布シートを貼り、1〜1.2mぐらいの間隔で穴を開け、ホースを差し込んで1スパンずつ隅々まで吹き込みます。作業で開けた穴はシートで塞がれ完了。高密度に重点しているのでパンパンです。

セルロースファイバーにはどんなメリットがある?

高い断熱性能を持つセルロースファイバーですが、実はその他にも多くのメリットがあります。

 

●紙が原料でも燃え広がらない!高い防火性能
難燃性のあるホウ酸を添加しているため熱に強く、ガスバーナーで直接燃やしても表面が炭化するのみで炎を遮断し、燃え広がりません。

また、万が一燃えた場合でも有毒なガスが発生しないため、燃え広がるまえに安全に逃げる時間を稼ぐことができます。

 

●防音性能が高い
断熱材としては珍しい防音性能があることもセルロースファイバーの強みです。
前述した繊維内の小さな空気胞が音を吸収し、車の音や話し声などの騒音をやわらげます。

さらに高い密度と隙間のない施工により、外からの騒音を遮断するだけでなく、室内の音が外へ漏れることを防ぐ効果もあります。
ピアノ室の防音壁としても使用でき、近隣に迷惑をかける心配もありません。
2世帯住宅の界壁(各住戸の間を区切る壁)にも有効です。

 

●調湿性能が高く、結露防止効果がある
靴が濡れた時に、つま先に新聞紙を入れて乾かした経験があるかと思います。
新聞紙には、湿度が高い時には湿気を吸収し、湿度が低い時には湿気を吐き出すという高い吸放湿性能があります。
壁内の湿度を調整してくれるので、内部結露対策に非常に適した断熱材です。

 

●害虫予防効果がある
ホウ酸が含まれているため、シロアリやゴキブリなどを寄せ付けない防虫効果があります。

 

●天然素材で人体に優しい
天然素材なので身体に害を与えず、接着剤を使わないため接着剤成分によるシックハウスの心配もありません。
混ぜ込んだホウ酸も、人体への害はほとんどない安全性の高い自然素材です。経年変化で効果がなくなることもありません。
また、セルロースファイバーは目に見えるほど粒子が大きいため、アスベストのように飛散して発癌効果を発生させることもないので安心です。

 

●地球環境に優しい
主原料が新聞紙で、天然素材でできた断熱材なので、
ガラスを原材料としたグラスウールや、石油から製造する化学発泡プラスチック系等の断熱材と比較すると、製造時のエネルギー消費やCO2排出量が数1/10~数1/100程度で済みます。

さらに、解体時には回収機を使って再度リユースもできる開発が進んでいます。
産業廃棄物として処理されていた断熱材を地球環境のため再利用します。

デメリットは?

良いことづくめのセルロースファイバーですが、もちろんデメリットもあります。

▲他の断熱材に比べて高価
セルロースファイバーは密度を高くするため、たくさんの量(かさ)が必要です。
例えば、省エネ対応グラスウール16㎏/㎥に対して、セルロースはその3倍以上の55㎏/㎥の量を使用します。
また、専用機械を使用する専門業者による責任施工のため、現場ごとの性能のブレがほとんどないのが魅力ですが、結果的に材料コストと手間がかかり、グラスウールよりも高額になってしまいます。
(その反面、付加価値も多くあるので、トータルコストとしてこれをデメリットと捉えるかは考え方次第ですが…)

▲経年沈下する
反発力のない綿状の繊維なので、月日が過ぎると自重で徐々に沈下し、上部に隙間が出来るという欠点があります。
ですが、実際はきちんと高い密度を保って施工すれば、沈下はありません。

また最近では、吸放湿性をもつ麻の繊維を混ぜ込むことで麻がファイバーの荷重を支え、沈下を抑えるという改良された製品もあります。

セルロースファイバーの沈下防止のため、麻の繊維が配合されたMS工法

セルロースファイバーの沈下防止のため、麻の繊維が配合されたMS工法

まとめ

以上により、セルロースファイバーは断熱性能だけでなく、様々な嬉しい付加価値を兼ね備えているということがお分かり頂けたでしょうか。

ですが、様々な断熱材の特徴を知れば知るほど、どれも良い点悪い点が見えてきて、非常に難しい判断ですよね。
断熱材を選ぶポイントとしては、断熱の性能数値以外にも、以下の5つのポイントを参考にして比較してみてください。

 

1.耐火性があるか
2.
燃えた時に有毒ガスを発生させないか
3.耐熱性があるか
4.耐湿性があるか
5.施工時に気密がとれるか

 

暮らしの快適性を大きく左右する断熱材。
家の温熱環境は、住んでいる地域や性能・施工性・価格のバランス、また、窓の性能や家の形状など、様々な要素を組み合わせた家全体のトータルバランスで考える必要があります。

これから家づくりをされる方は、依頼する施工会社さんの実績・得意不得意・考え方にも大きく左右されますので、ぜひ尋ねてみてください。

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