第3回 耐震対策
2014. 12. 03
最近ではチリやハイチでの大地震が続き、甚大な被害が起きています。我が国でも震災の度に耐震対策が向上されて来ました。家を手に入れる予定の皆さんにとって、天災に負けない頑丈な器である住まいは最優先に求めていることだと思いますが、実際にはどの程度の安全度なのかを理解して手に入れる方はそう多くはないはずです。最近は地震対策の工法も様々で、「耐震」・「制震」・「免震」といったものはどんな特徴があるのか、コストの違い・問題点は無いのか?といった点をお話したいと思います。
耐震の現状
まず目安となるものが建築基準法で定められた現行の耐震レベルです。それは震度6程度の地震にも倒壊しないというレベルのもので、住民が避難できる時間をつくるのを目的として設定されました。ただしその後に続く大きな余震までは想定していません。法律レベルを確保したとしても、そのままでは大地震にもビクともしないという訳ではないのです。
「国が決めた基準なら余裕も見ているだろうし、しっかり現場検査を受けていれば安心なハズでは・・」と思っていた方も少なくないのではないでしょうか?
残念ながら違うのです。ですからどの造り手も少しでも安全率を上げて例えば「基準強度の1.5倍もあります」と宣伝しているのです。
そのような現実の中で、住宅性能の向上を目指すと同時にエンドユーザーに分かりやすい判断基準として国によって作られたのが、平成12年に始まった住宅性能表示制度です。住宅の10項目についてミシュランのような等級付けをして性能の向上に見合ったメリットがつくようにしました。制度を利用した評価書付きの家には、住宅ローンの金利優遇や地震保険の割引、住宅売却時には価格が下がりにくいというメリットがあります。そして昨年からは更なる高寿命の家を目指した「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行されました。認定されると国から100~120万円の補助金が出る仕組みで、その他にも金利優遇・減税等があり多くの恩恵が受けられます。
地震対策も選べる時代に
幾つかの大地震を経験して、多くの企業から様々な工法が生まれてきました。
大きなカテゴリで言うと従来からの揺れに耐える「耐震」という概念から、揺れを受け止める「制震」、揺れを受け流す「免震」という工法です。
一言で表現すると、「耐震」=固める 「制震」=吸収する 「免震」=逃がす という表現になるでしょうか。
この順に効果が上がり、同時に設置コストもかかることになります。次にそれぞれの工法の長所短所を簡潔にまとめてみました。
●耐震工法
筋交いや構造パネルによって建物全体を固める工法。建築基準法でもこの工法をベースとしており、ごく標準的な住宅に使われている。
基本的には標準単価に含まれていることが多い為、一番ローコストである。
長所は耐力壁で構造体を箱のように堅固にする為、水平・垂直方向に対して剛性力が高く、地震時でも建物全体で耐えることが出来る。
但し建物の傾きを抑える代わりに室内への衝撃度が直接人や家具にも伝わるために家具等が転倒しやすい。また他の工法に比べて大地震の場合、損傷を受けやすく、倒壊は免れても改修費が一番かかる可能性がある。
●制震工法
耐震工法に加えて形となる工法で、ゴム・アクリル・オイル等の特性を利用した金物を使い、地震で揺れる際の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収することにより、 建物の揺れを低減して損傷を防ぎます。様々なメーカーが扱っているが、設置コストは延べ床面積が30 坪あたりでおよそ40~50万程は必要。
長所としては壁の中に制震装置を取り付けられるので場所をとらず、耐震工法と仕上がりは変わらない。また余震などの繰返す振動にも効果を発揮し続けます。
揺れをソフトに出来るために室内の家具の転倒や建物の損傷を抑えることができる。手頃なコストで取り入れやすい。
短所は他に比べて突出するものは見当たらないが、現在多種多様なシステムが販売されており、中には解析による配置根拠に疑問が残るものもあるようで、大きな吹抜けや開口部がある間取りでは建物全体に有効に作用するかどうかは慎重になるべきかと思っています。
●免震工法
基礎と土台の間にボールベアリングやゴム製の免震装置を取り付け、地盤の揺れを建物に伝えにくくして、建物の損傷を防ぐ工法です。
大地震時に機能するため、中地震までは耐震工法となります。基礎と土台を切り離して造る為、工事費は一番割高となり、およそ300~400万円ほどかかると言われています。近年は免震を売りにしたマンション販売も見かけるようになりました。ですがシェアはまだ1%に満たないと言われています。
長所としては水平の全方向にスライドする為、何よりも横揺れの伝達が激減します。建物の損傷だけでなく室内への影響も最小となります。
制震と同様に繰り返す振動にも性能が落ちる事はありませんので命を守るのには最良の工法かもしれません。このように最大の効果を発揮できる工法ではありますが、当然欠点もあります。建物が横に滑る構造の為、建物の周囲は最低50cm以上の離隔が必要で、軒が近づきやすい都市部のような立地や斜線制限による建物の高さが取りにくい立地では物理的に設置は難しくなります。土地が軟弱地盤等で設置が制限される事もありますし、設備配管等が追従する工事や建物の周囲には何も置かない等、さらにメンテナンスも欠かせません。また強風が原因で、建物がずれたり揺れる等のクレームを受けているシステムも実在しています。
それぞれの工法を簡単にご紹介しましたが、このように対策も一長一短です。現状としてはコストパフォーマンスや施工の簡易さからも耐震工法に制震工法をプラスしたハイブリットタイプが一番注目度も高く、大手ハウスメーカーでは標準仕様になっているところも出てきています。このハイブリットは造り手の規模の大小を問わずに採用できるのもメリットですので今後は主流になるのではないかと言われています。
過信は禁物
勿論全ての工法に言える事は、当然ですが性能を生かすために丁寧な作業が大前提で定められた計算や留め付け方法が大切です。そこで注意したいのは現場等で「無いよりもあったほうが良いよ。より強くなるから・・」という感覚で計画以上の根拠の無い補強等をすることです。
大工さんが親切心で言ってくれたとしてもさせてはいけませんよ、実際世間ではそんな感覚の方々はまだ少なくないようですから(苦笑)。
何故ならオマケのように筋交いや構造合板などを付加してしまうと、力の流れが変わって逆に構造を痛める結果になりかねないからです。
それでなくても建物本体は耐力壁だけでなく下地や仕上げ材等も自然と作用し、さらには家具や収納の重量・置き方も相まって揺れに影響を及ぼしています。それらが災害時にどう作用するか、また建物全体が本当はどう動くかという検証については残念ながら非常に曖昧なのも事実。
このような事実は、実物大を使っての耐震実験結果を見ても、残念ながらお偉いさん方の机上論のようには動いてくれていないのが現実で、大手ハウスメーカーも含めて何度も実物データを取って日々研究が進んでいます。
少し脅かしすぎましたでしょうか?建築のプロにしては無責任な意見だと言われるかもしれません(苦笑)。だからと言ってデータを当てにするなとお話しているわけではありませんよ・・決して過信は禁物だと言うことです。
優先すべきは地震に強い間取り
そしてどの工法を選んだとしても、建物が複雑な形状だったり、壁も少なく配置バランスが悪いような間取りでは、せっかくの工法が効果を発揮できない可能性も大きいので注意が必要です。
一生に一度の住まいづくり・・・つい個性的で奇抜な空間デザイン等に惹かれやすい所ですが、家の役割で大切なことは「大切な家族の命を守り安心して暮らせるということ」。それは何よりも優先されるべきですね。それぞれの工法の特徴をよく吟味した上で、是非地震に強い家づくりを実現してください。
( 雑誌「バイ・ザ・シー」23号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)