第13回 暖房
2014. 12. 13
まずはそれぞれの暖房機器の話をする前に、大きな二つの方式に分けて考えてみましょう。それぞれの特徴も簡単ですが合わせてお話します。
対流式暖房
エアコンやファンヒーターなど暖めた空気を室内に吹き出して直接室内の空気を暖める方式。
室温を手早く上げるには適していますが、空気を暖めた後から床や壁などの面が暖まるもので体感的な温かさを感じるのには時間がかかります。また、この方式は「送風の不快感」や「騒音」など気になる方も多いようです。
ただ、一度暖まると温度調整のレスポンスが良いのもメリットです。
輻射式暖房
床暖房やパネルヒーターなど、部材自体を暖めて、その輻射熱・伝導熱を利用する方式。遠赤外線が出るものも多くあり、対流式と比べて空気を動かさないため、ホコリなどが舞い上がらない室内環境、そして無音というのが大きなメリットです。ただ、室内の空気が暖まるまでは時間がかかるので、朝や帰宅時にはタイマーなどを採用する必要があります。基本的に継続して動かすのが有効で、入り切りを繰り返すような間欠暖房には向いていないのと、急激な温度調整も苦手です。逆に全体が暖まるとなかなか冷めにくいというのは有り難い効果です。
対流式機器
- ・エアコン
- 皆さんよくご存じの定番機器ですが、効きがイマイチとか電気代が高そうとか、あまりいいイメージを持っていない方が多いと思います。ですが実は非常に高効率で、皆さんが思っている以上に優れた省エネ製品なのです。なにより他の暖房器具にはない「冷房・除湿・加湿」が出来るのでオールマイティーさでは断トツの最優秀選手です。オールシーズンでも一台で済むのが強みです。結局、どんなに良い暖房器具を付けても夏のためにエアコンは付けておくというお宅も多いのではないでしょうか。 ただ設計する側からは美観上、物理上ともに設置場所にとても悩みます(苦笑)。また、空気が乾燥しやすいのが大きな難点なので、選ばれる際には少々高いですが加湿機能付きのランクをお勧めしています。
- ・ファンヒーター
- とても多くの種類があるのでひとまとめに長所短所は言えませんが、エアコンに比べて高温風のため、直ぐに暖まりたい時などには重宝します。今でも寝起きにヒーターの前で丸くなっている人も多いのではないでしょうか?(笑) 熱源は灯油・都市ガスが主流(電気は小部屋とか局所が多い)です。ガスファンヒーターなどは局所に効かせたり、移動可能というのは大きな魅力でもありますが、灯油やガスの熱源は意外とランニングコストはかかります。 また、水蒸気を大量に発生させるので室内結露やカビ発生には注意が必要で、以前の住宅と違って現在の気密性が高い住宅ではFF式を除いては空気汚染が早いので定時換気が必須ということを是非お忘れなく。
輻射式機器
- ・床暖房
- 主に電気式と温水(熱源はガス・灯油)式があります。床から暖めてくれるので、輻射熱だけでなく直接足などに触れていることで伝導熱も加わり、理想の「頭寒足熱」状態で気持ちの良い環境をつくります。幼児にも安全で高齢者のヒートショック対策にはとても有効で、風もないので空気を汚すこともありません。また、乾燥もしないので室内環境としてはベストに近いかもしれません。私の住む神奈川エリアで床暖房を採用したお宅では真冬でもほぼ床暖房だけで生活されています。 デメリットは暖房パネルなどのサイズが決まっているものも多く、床面での温度差が不快に感じる場合も考えられます。また、無垢フローリングなどを採用する場合は使える材料が限定されるので要注意です。 システムとして当社では漏水の心配の要らない継ぎ目なしのシームレス管を用いて、キッチンなどに立った時の足の位置まで暖かくするなど、暖房範囲を自在に設置できる製品を使用しています。ただ快適性が高いかわりに、ランニングコストは高めになります。
- ・パネルヒーター
- 床暖房のように温水循環式で固定式の放熱パネルのものや、移動可能な電気式オイルヒーター(デロンギ等が有名)・電気パネルヒーター(ハロゲン系が人気)などがあります。床暖房のように仕上げ材を選ばず、床にラグやキッチンマットを置くことも気軽に出来ます。なお固定式のタイプは床や壁に置くため設置場所の確保が必要で、費用は高めです。 少し異種としては深夜電力を利用して本体内のレンガに蓄熱させ、その放熱を利用する「蓄熱暖房機」や、床下のコンクリートスラブの中に電熱線や温水パイプを入れて、コンクリートに蓄熱させる「スラブ蓄熱」方式などがあります。ただ、これらに使用している割安の深夜電力帯が今後も維持されるかどうかが気になるところです。
木質バイオマスストーブ
これは木を燃料にしたストーブのことで、対流式では木のチップを燃やしてその熱を拾ってファンで送風する「ペレットストーブ」、輻射式では「薪ストーブ」があります。
間伐材を加工した製品が多く、薪に比べて煙も出にくく、タイマーが付いているタイプも多いので都心部で留守がちな家庭には向いています。ですが、殆どのタイプが電気を使うので停電時や災害時には残念ながら動きません。
その点、薪ストーブはどの機器よりも手間がかかりますが、電気が無くても使うことが出来るのが嬉しいですね。なによりその揺らめく炎を眺めているだけで癒される魅力がありませんか?これらは地球環境に寄与するだけでなく、熱源としても優れているので是非と私もお勧めしています。勿論手入れはかかるので憧れだけで選ばずに長所短所をしっかりと理解して採用しましょう。
パッシブソーラー
また暖房だけでなく、家全体のシステムとして屋根や壁面に設置して太陽熱を利用した「そよ風」や「OMソーラー」が代表格のパッシブソーラーというものがあります。太陽熱を空気集熱して室内にファンで取り込んで暖房したり、室内のサーキュレーションをすることによって、家じゅうの温度ムラを無くすことが出来るものです。給湯などに使うお湯採りも出来る優れたシステムなのでパッシブデザインにご興味ある方は是非調べてみてください。
以上、色々ご紹介してきましたが、どの方式でも重要になってくるのが肌の暑さ寒さを感じる目安の「体感温度」です。室内ではおよそ空気温度と輻射熱(周囲の素材が持つ温度)が体感の半々と言われており、たとえ室内温度が高くても家自体が冷えていては快適さを感じないというわけです。この体感温度を頭に入れてご自分達の暮らし方に合った暖房方式はどれかを考えてみましょう。
また、無理に一種類の方式に縛られる必要もなく、効率で言えばいくつかの方式を抱き合わせでうまく活用するのも一つの道です。エアコンで室内空気を軽く暖めながら、輻射熱をメインに使うなど、使い方もアレンジするとより快適な自分スタイルの暮らし方が出来ると思います。
そしてこれからの家族の一日のスケジュールも想定しながら、例えば「家全体を一つの熱源でまかなうのか・・個室ごとに対応させるのか・・」などと、イニシャルとランニングコストの比較も入れつつ、冷暖房を考えながら家のプランニングを進めることはとても大切です。
暖房方式の利点を活かすも殺すも計画次第といっても過言ではありません。魅力的な吹き抜けや大開口窓も魅力がありますが、それらがマイナス要素にならないよう断熱性能なども含めてしっかりと計算に入れて、依頼先の設計士や工務店と計画を進めてください。
そうすることで、皆さんにとっての「一番ふさわしい暖房方式」が見つかるのではないかと思います。
是非、地球環境に配慮した快適・省エネの「暖かい暮らし」を実現させてくださいませ。
( 雑誌「バイ・ザ・シー」33号 北村の連載コラム<左利きなイエづくり> より 転載)